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本「青春のオフサイド」Rウェストール

青春の、ださい邦題だ。ウェストールの作品じゃなければ手に取ることはないだろう。Falling Into Glory、原題も意味わからない。めずらしくメロドラマだった。ウェストールらしい明晰だがあいまいな文章にくらくらする。うまい作家である。共感できるところもありなんだこれはという肩透かしもあり主人公のいけすかない言動もあったがさすがウェストール、おもしろかった。

表紙の袖より
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戦争が終わって何年かたったとき、17歳の僕は32歳になった彼女と再会した。小学生の頃にあこがれていた女の先生エマが僕の高校の教師として転任してきたのだった。年寄りばかりの先生たちの中では彼女はきれいだったしいつも励ましてくれるいい先生だった。僕は胸をときめかせた。だが僕の毎日はラグビーと進学のための勉強でいっぱいだったしエマのほうは婚約者を戦争で亡くし今は同僚の先生とつきあっているという噂だった。だから普通ならあんなことは起こるはずがなかった。なのに僕たちは恋に落ちた。ほかになにも目に入らなくなった。
年上の先生と恋に落ちた17歳の少年ロビーの日々を、ラグビーチームの個性豊かな仲間たちやロビーに惹かれる素朴なクラスメートの少女、理不尽な校長や大好きな祖母など周りの人々との交流の中で描き出すみずみずしい物語。自信と劣等感、粗雑さと繊細なやさしさが混在し生命力あふれる17歳の肖像がくっきり浮かび上がる、巨匠ウェストールによる深く心を揺さぶられる青春の物語。
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ロビーは成績優秀で体格よく人気者だ。エマのままとロビーの祖母は仲の良い友達で、ロビーはエマの家でエマにラテン語を教えてもらう。エマはなくなった恋人の想い出に縛られていた。一緒にレコードを聴く。ピアノはもう弾かない恋人が死んだので。「弾きなさいよ」勧めるロビー。エマはロビーと過ごす時間を亡くした恋人との想い出を思い出すだけではいけないという自分の理性を補強するものとして「利用」していることに気づいていた。「僕を利用して。マッチ箱のように」とロビー。ベートーベンの月光を弾く。二人はお互いを意識しあうようになる。
エマと会えなかったときにふてくされたロビーは同級生のジョイスとデートを楽しむ。エマはそれを知り、若い人同士のほうが幸せよねお似合いよ。と突き放そうとするが心は乱れるのだった。ロビーもジョイスの若さを感じはするが先生のほうがいい愛しているのは先生だけだと想いを強くする。
同時にロビーの学校生活も描かれ、いじめられっ子ウィルソン(貧乏人)を助けてやったり気に入らない先生をからかったりな利発で人気者なエピソードがある。ラグビーチームの仲間を探してサッカーがうまいが盗癖のあるカロムが持ち込むいざこざや、ラグビーリーグのプロであるパンティ兄弟には勝てば賞金をやると金銭契約をして出場させ強豪校に勝ったりする。監督の先生とのトラブルや校長の信頼を失う出来事などありロビーは退学になる。
エマのままの旅行中に彼らは一線を越える。エマの車でのドライブが二人のデートとなるがある晩、ウィルソンに見つかってしまう。あわてる二人。その出来事はばれなかったが(ウィルソンは本当に友達になりたいだけだったようだ)退学になったロビーは退学にした人たちを見返してやりなさいよとジョイスの励ましでトップの成績をとり、校長も復学を認めざるを得なかった。そして、エマは、ロビーと別れる決心をして仕事に生きる将来は校長になって戻ってきますと言い実現する。
愛し合いお互いに愛されずにはいられない人目を避けた恋であったが、ロビーは勉強をおろそかにしないしラグビーでは勝利を目指して練習する、エマはよい先生であろうと心がけて生活全編を努力する。愛に溺れることと「生きる」ことは両立できるのであった。またそのような強い二人だから二人だけの世界が現れたのだろうと思った。好きなのに別れる、というのは理解できるが納得できないことなので、エマの最後の自己を律する行動にはあこがれを感じた。素敵な女性で、悲しい女だった。


by kumaol | 2016-11-19 08:28 | 雑記