DVD「めし」成瀬己喜男

面白かった。小説は面白いが映画としても面白い。成瀬監督のタンタン(淡々)が効いている。原節子は大柄でM子さまみたいだった。痩せて若い上原謙とは夫婦というより母息子みたいに見えるんだけど好みじゃないから厳しく見えるのか。高峰さんだったらよかったなあ。テレビドラマみたいなアットホームな物語かと思わせる出だしなのだがそこは林芙美子、徐々に基地外じみてくる。原節子が陰気なキャラで言いたいことを言わずに嫌味で遠まわし。言いたいことをいうときはねちっこく被害者意識満載で徐々に壊れていく様子がわかる。普通のどこにでもある夫婦の話というには抑えた演技と乾いたセリフ回しとわざとだろうと思わずにいられない夫の鈍感さ。大阪から東京に逃避した原節子が「ハハッハッハッハ」と大笑いするところが不気味だった。(かって両思いだった東京のいとこがまだ自分に気があるとおもっていたら里子とデートしていてつまらなく感じていたところに里子がいとこを恋人にしてもいいかと許可を求めてきたので関係ないわという強がりから大笑いをした場面)初めから変な人間たちを描くのではなく普通ですよ皆さん普通ですよと登場させておいてみんなどこかおかしい。特に貞淑で美人で幸せなはずの若妻原節子がおかしい。うまい。
あらすじ。恋愛結婚の二人は少々倦怠期。倦怠期というどこにでもある夫婦の話。夫の姪が、結婚相手が貧乏だから迷ってるといって押しかけ居候する。べたべたと誰にでも甘える姪の里子。上原にもなれなれしい。原節子は面白くない。少ない給料でやりくりしてるのに里子に小遣いをやろうという。いらつく。同窓会に出かける。いつもお美しいと褒められる。「まあ」しあわせな奥様でうらやましいわ。「まあ」はにかむ原節子。悪いたくらみにひきこもうとする同僚をきっぱり断って立派な会社員だと評価があがる夫、東京で働きたいという妻、里子を東京に送り返すついでに一緒に東京の実家に帰る。母親は兄夫婦と同居している。父親と喧嘩したといってそこにも転がり込んでくる里子。兄がきっぱりしているので居候は自分のことはじぶんでやれと母親や兄嫁を使わせない。居心地悪い節子は早く仕事を見つけなければと思うが。上原が迎えに来る。店でビールを飲む二人。「腹が減ったなあ」あなたって腹が減ったしか言わない。わたしはごはんを作るだけ。と喧嘩したことが思い出され、二人してニヤッと笑う。一緒に大阪に帰る。
夫が悪者に接待されたところがMETROで、大昔のキャバレーの様子が映っていて面白かった。品川も大阪の街も、古くて面白い。電車の窓から、夫あての投かんしなかった手紙をびりびりに小さくして捨てるシーンがあるのだがゴミ撒き、昔の情景。今なら不快感が募る出来事だろう。ユリちゃんという子猫を飼っているのだが、東京の実家に帰るときには猫のことはほったらかし、あの人(夫)はユリちゃんを家にいれてくれているかしらなどとのんきな心配をする。猫は雨戸のしまった家の外に追い出されたままだ。原節子が好みではなかったので里子を応援した。しゃべったり動いたりするたびにまともなまじめな人をイラつかせる気持ち悪い女である。原節子がいらいらしたり嫉妬するのがなにげに快感だった。小説は未完なので映画関係者が作った結末、一緒に大阪に帰るはありそうでありそうだが。鈍感でやさしい夫が離婚する!と離婚して、いじいじ愚痴っぽい妻が「もうご飯をつくることもできないのだわ、ハッハッハッ」と気が狂うというのがもっとありそうだと思った。林芙美子は面白い。成瀬もよい。
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専業主婦がほとんどの時代、女は男の付属品だった。男のおまけとしての人生、閉塞感。働く当てもない何もできない何のとりえもない女が家計のやりくりに疲れてデリカシーのない夫に疲れてめしを作って差し出すだけの生活に疲れる。家があれば職があれば財産が有ればたった一人の男にへいこらしないでもすむ。里子を前にして馬鹿笑いする原節子もこわかったがそれ以上に怖かったのが、節子の母と妹だ。大阪から夫が出向いてくる、外出していた節子はたたきに夫の埃だらけの靴を見る。母親と妹は満面の笑みで、耳元まで裂けるほどの口角をあげた満面の笑みで、「迎えに来てくれたわよ、帰りなさい」「よかったわねお姉さん」とニカニカするのだ。二人の顔がこわい。ふたりの無神経がこわい。まったく気持ち寄り添うことなく、女は夫のもとに帰れそれが正しいあり方だと信じて疑わない。息詰まる。林芙美子はどういう結末を書きたかったのか。男にもてて美人とほめられるただし一人で職をさがし歩くでもなくエリートのいとこを頼るようないわゆる形だけの反抗をしている甘ったれ、誰も悪人になっていない。大阪に二人で戻ってもどちらも根に持たない。どこにでもある風景と見せてものすごく異様だ。淡々と夫を刺し殺しても不思議ではない。壊れて感受性がなくなってしまうのだ。自分の身に起こったこととは思えなくて。

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by kumaol | 2017-06-10 21:10 | 雑記 | Comments(0)