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マンガ「ブッダ」手塚治虫

2-12まで読んでて、1巻がなかなかなかったのがやっと読めて読み終わった。創作の人物がたくさん出てくる。短編が折り重なって長編になっていく。短編の起承転結の「転」があっと驚く転であり飽きさせない。夢中になる。
おかしいところも多々ある。ブッダの自分勝手なところ、青臭い頑固なところ。王子として貴族の娘と結婚するのだが当時はミゲーラが好きだったし修行もしたかったので結婚したくなかった。子供なんてできたら修行の障碍にしかならないと拒否するのだが、ちゃっかり子供ができる。子供には障碍という意味のラーフラという名前をつける。やな男。国を捨てて修行したり説法したりして全国を回ってシャカの国はコーサラ国に攻め落とされる寸前だった。何年間もブッダなしで国を守ってきた老いた父と継母、妻ヤショダラと息子ラーフラ、彼らも国を捨てて(国にいても殺されるだけシャカ国は滅亡した)ブッダの修行地に逃げてくるのだが「あなた方は国を守るために帰りなさい!」とか言っちゃう。自分は何年も前に国を捨てていてヤショダラや継母の女たちががんばってきたのにこの言い草。えらそう。国は滅亡しましたと言われてしぶしぶ納得するのだが、必然的に女たちはもうしわけありませんとあやまる。ブッダ、えらいのう。





貧富と身分制度と民族間抗争、昔の話と思うけれど、似た構図は現在もある。女の参政権や配偶者遺産相続権や就職平等権が得られたのは最近(現代)だ。身分制度は特権と同意義になって実態がわからない。民族間抗争は広島長崎そのものである。日本では薄く広く宗教観が浸透したが宗教ではなく「常識」という見えない鎖が強くあるようだ。ネット社会が鎖を切れやすくしつつある。よいと思う。
ブッダ全巻を通じて一番気になったのはブッダのきさきになるヤショダラだ。手塚さんが美女を書くときの美女そのものであって横長に広い顔と長いまつげに縁取られた大きなつり目だ。「ミゲーラを好きなことはわかっています。でも国のために、結婚しなければいけません。尽くしますわ」いい子なんです。ブッダにどけ!と言われてよよと一人泣く。ブッダがいなくなったあと、父王はブッダの武術の家庭教師に雇っていた乱暴者の騎士パンタカを王にする。パンタカはヤショダラにほれていたので妻にしようとするが「近寄ったら死にます」剣を自分に向ける。あきらめるパンタカ。何十年もブッダという夫なしでよその国から嫁いできた彼女の歴史は貴族の娘の誇りに満ちていたのでしょう。
パンダカは意味なく鹿に弓を引いて殺すような野卑な男だったが、王を殺して新しい王にならないかという大臣たちのそそのかしになのらない。卑怯なことは嫌いだと言い正面から王になりたいと王に迫った。容姿が不細工で三白眼に描かれているのでいかにもな悪人なんだがイケメンに描かれていたら結構いい男じゃなかったかと思う。ヤショダラにフラレタあと奴隷女との間に子供を作る。その子供はイケメンに成長してルリ王子に取り入り悪巧みを繰り返す。
テーマとなるエピソードが1巻と最終巻に同じコマ割りで出てくる。同じ原稿だろう。老人の聖者が行き倒れる。くまときつねとうさぎが食べ物を渡して助けようとする。くまは魚をキツネはぶどうを、うさぎはなにも持って来れなかった。火をくべるように老人に頼み、うさぎは火の中に飛び込む。焼けた肉を食べてください。ウサギの心を解明できるのがブッダだ、と1巻で提示し、最終巻で理解を求める。
森羅万象はすべて一つの輪である。あなたが存在しなければ違う輪になっている。死ぬのはいやだ、人はなぜ死ぬのだと悩むブッダは国を捨て苦行の道にはいるのだがブッダの話だが脇役たちがそれぞれ出生のエピソードがあり執着があり怨念がありブッダへの帰依がありおもしろい。脇役の一番手はタッタだろう。
タッタはバリアの泥棒で、動物に憑依する事ができる。チャプラも奴隷だったが将軍を助けて養子になる。奴隷の母親はいなくなった息子を探し(タッタも同行する。タッタはチャプラと兄弟の契りをしてチャプラの母親を自分の母と慕っている)黙っていればいいのに私の息子私の息子と言うものだから奴隷のくせに将軍をだまして息子に成り上がったチャプラは母親と一緒に殺される。タッタは母と兄を殺したコーサラ国を仇と、一生の恨みを抱くことになる。タッタはブッダの初恋の人ミゲーラと結婚する。ミゲーラは「ブッダに取り入った奴隷の女」という罪で父王から両目を焼かれていた。さらに、ルリ王子の父王が殺されたことで犯人にされるためパンダカの息子に毒を飲まされて口がきけなくなった。また、ミゲーラは体中に膿が溜まる病気になり近辺の住民から野焼きをされて住んでいられなくなったりとか受難の女性だ。膿はブッダが吸い出して治る。口の毒も治ったが焼かれた目はそのままだった。タッタはミゲーラを苦しめたシャカ族の王やパンダカの息子に復讐すればいいのに、なぜか大昔の子供のときの母と兄の復讐をあきらめないのだ。業の深さというものなのか。コーサラ国に開戦の口火を切り象に踏み潰されて虫けらのように死ぬ。タッタたち反乱軍が開戦したせいで一度は許されて国が復活したシャカ国は徹底的に滅亡させられるのだった。
ブッダは中年になって教団が大きくなって弟子もできて急に顔が大きくなって大仏みたいになったのがおもしろかった。おなかが弱いので昼間から横になってる。ひじを折って枕の替わりにしてるのだが、まねしてみるととても寝づらい。腕は痛いし頭の位置も落ち着かない。手塚さんの死後、天才だと再認識されるのは起承転結の明確さ、ストーリーテンポの速さが今のマンガには割りと見られにくいことだからだろう。ふじこさんは現役だけど。おそ松くんやどらえもんは頭の先から足の先まで全身がコマの中で動いていた。昔っぽい手法だけど読みやすいしスピードと動きを感じる。そういうマンガが少なくなったことが再認識になったといえよう。三つ目が通るの三つ目やギルモア博士みたいな人も出てきてオールスター性もおもしろい。剃髪していたつるつるの頭が急に大仏パーマになっていた。急に青年ブッダから中年大仏になっていたのがマンガらしかった。
by kumaol | 2015-07-20 12:32 | 雑記