人気ブログランキング | 話題のタグを見る

本「弓を引く少年」

本「弓を引く少年」大塚菜生 国土社YAシリーズ

馬にまたがり弓を射んとする流鏑馬装束のさわやかな少年が表紙、乗馬な物語かと思ったら流鏑馬をやってみてもいいかなと思うまでの物語だった。
母は交通事故で死んでしまう。父親は夜遅くまで働いて自分を育ててくれてる、勉強していい会社に勤めて高給取りにならなければ。父親には兄がいて、小さいときにはハルオジと呼んでなついていた。その頃のハルオジは乗馬クラブに勤めていて弦(ゲン)に乗馬を教えてくれたのだ。経営に行き詰まりクラブを手放し酒浸りになったハルオジ、母が死んでから親交はなかった。いきなり弦の前に現れると、馬を買ったから馬の練習をしにこい、やればわかる。と強引だ。在来馬の海王という黒馬、まっすぐ走る練習をさせられる。気乗りしない。べつに、乗馬なんてしたくないのに。弦には発達障害の友達がいる。乗馬中に馬場に入り走り寄ってきて避けたところ落馬してしまった。これを契機にもうやめようやめたい。ハルオジは認めない。お前は馬が好きだったじゃないか。子供の時の話だ。何言ってんのこの人。自分だって酒浸りになって昔とちがうくせに。流鏑馬をやっている父親の写真を見せる。お前の父親は流鏑馬をしてたんだぞ。海王は肉にもなれず殺されるだけの運命だった、しかし流鏑馬に合う馬は海王みたいな馬だ、お前は乗り手になって、やるんだ。いやだ、ぼくはいい大学に入って高給取りになりたいんだ。決裂する。夜遅くに帰ってきた父親に流鏑馬の話を聞くと、そんなこともあったなあと秘密でもなく懐かしげでもなくあっさりと思い出す。父親の家は貧乏で、兄のハルオジは高卒で働き大学に行かせてくれた、人付き合いのうまくないハルオジは結婚もせずお金をためてこつこつ働いていたが小金をためてることを利用されて乗馬クラブに出資させられる。そこでもうまくいかなくなったらぽいと捨てられある中だ。かんこうへん手前で入院する。見舞いなんかにいかないぞ。ハルオジから青木という人に会えと言われ、流鏑馬保存協会の青木に会いに行く。ぼく、やるわけじゃないのでことわりにきたんです。そうか、そうかもしれないとは思ったよ。青木の澄んだ目を見て、弦は気が変わる。この人は信用できる人だ。小学生の卒業文集に、うまとなかよくなりたいですと書いた。覚えているし思い出してる。挑戦してもいいかもな、と少年は思うのだった。





ハルオジ、とおじさんのことを呼ぶそこからしてなんか気持ち悪い。語感が合わない。お父さんはなんで毎日毎晩遅くまで働いているのか、ひとり親だとそうなるのか、よくわからない。友達はなぜ発達障害でなければいけないのか。馬場に侵入するために?弦はたいして頭がよくないのになぜ宿題をして塾に通ったら頭がよくなっていい大学に行けると思ったのか夢見がち?やる気のない子供に馬と馬場を貸せるくらい乗馬クラブはひまなのか現実の乗馬クラブは予約がいっぱいで毎週乗れたりできないのだが。
子供に、可能性に向かって挑戦する開放的な心をもてるようになる環境は大事かもしれない。勉強するんだというのも悪くないと思うが。たぶん、本当は馬が好きで本当は馬に乗りたいのに母の死や父の苦労やどこに安心して気をゆるめていたらいいのかわからなくて小さくなっていたんだろう。ハルオジは知ってか知らずかだが自分の気持ちを押し付けたことで弦の反発を招き自立心や好奇心を活性化させ心も開かせることができたのだ。結果オーライである。話の流れは強引であるがドラマや映画は強引でなければ、結論ありきの過程でなければ始まらない。弦は馬に乗ることがこれから楽しくなっていくんだろう。そして、うまくなっていくんだろう。うまくなっていくんだろう、うまくなっていくんだね。うう、うらやましいわ。

犬と道路にいるときに、柴犬やフレンチブルが横を通り過ぎていく。うちの前の道が両隣の道に比べて車の通りが少ないので犬の散歩道なのだ。よその犬がすぐそばにいてもワンワンほえない。あれほどわんわんほえてリードを引っ張っていたのに、世界は同じなのに、犬にとっては世界は変わった。同じ世界なのだ。犬だけが変わった。犬は、同じ世界にまだいると思ってるだろうか。自分もそうなるんだろうか。気づかないから気づけない、同じ世界なのに世界が変わっている。軽く恐怖だ。
by kumaol | 2016-06-06 22:19 | 雑記