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本「スーツケースの半分は」近藤史恵

女性作家だけの書き下ろし短編集「隠す」を読んで、近藤さんの作品が面白かったのでなにか一作読んでみることにした。「隠す」に入っていた作品はご近所ものというか身近なホラーでひねりは薄かったのだが一番起承転結がはっきりしていてわかりやすかったのと文章が読みやすかったのだ。そのあらすじは、人の大事にしているものをもらうのがうまいあたしが貧乏な友達の持っていた色鉛筆をくすねる。中学にあがり消息はわからなくなった。貧乏な友達は自殺していた。継母からもらった色鉛筆は(万年筆だったかも)ドルチェビータという高価なものでわざとなくしたと思われ夫婦仲まで悪くなっていたのだ。そうとは知らないあたし。すてきな男性と知り合う。彼は友達の兄だった。山奥に置き去りにされ、急発進した車が突っ込んでくる。という話。短編なのでうまい具合に詰め込みすぎだがメリハリがよかった。結構たくさん出版されていたがこれは聞いたことがあるというほどのビッグタイトルがなく、明るそうな題名のこれを選んでみた。
「スーツケースの半分は」は、連作だった。仲良し四人組のそれぞれが主人公になっていき、そのいとこ、それからスーツケースをフリマで売った女性が主人公になりスーツケースの元の持ち主の話になり、幸運を運ぶスーツケースの連作が9つ。ファッション雑誌の後ろに載っていそうなさらっと読めてわかるわかるという感じの生活感あふれているのだけども台所的生活感ではなくパンプスを履いて過ごしている場面の生活感のほうで、うまくまとめるものだなあと思った。誰系というと、向田邦子系だ。特に難しいことに挑戦しているのでもなく哲学ではないのだけれどもいいことをさらっという。最終章はこんな話だ。都内に大きな家をもち習字の先生をしている加奈子おばあさんのところに大学生が手伝いに来る。庭の掃除とか犬の散歩とかの手伝いだ。彼は夏休みなどの休みには必ず旅行に行く。加奈子さんも行けばいいのに。怖がりだからいかないわ。怖いことなんてないですよ。「こわくないものをこわがるのが怖がりなのよ」みたいにさらっと真理だなと思うことが書かれる。加奈子さんはがんで病院に入ってしまうのだが大学生の男の子はスーツケースをプレゼントする。スーツケースはフリマで売られ貸し出され次々と旅行のおともをしてそれぞれに幸運を見つけていく。友達四人の会話には無神経な部分があり友情はいいなと思えるところもありとても身近だ。連作に飽きなかった。
読んだことのない作家さんの作品をもっと読んでいきたいと思った。

by kumaol | 2017-04-10 21:20 | 雑記